堀野:このワークショップの原型は、震災の時に作ったんですよね。その時はDEARの中でどういう議論があったんですか。そもそも、このテーマで教材を作ること自体に対して。
八木:最初に議論になったのは、「DEARは組織として、原発問題に意思表明をするべきじゃないか」ということです。DEARは会員の構成から言っても、理事やスタッフの意識から言っても、原発推進には反対という人が多いと思います。
ただ、DEARは「教育」団体です。もし「反原発」を掲げたら、そういう主張をしている組織の教材は、使いにくいでしょう。その教材には「原発反対」というメッセージが込められていて、誘導されるだろうと思うでしょうから。
実際に原発問題に関しては、推進派・反対派が出している教材や資料がありますが、教育現場の人たちはそういったものは使いにくい。賛否のあるイシューほど、どちらの意見の人も参加して話し合うべきだし、そこに価値がある。
また、原発問題については、「話すこと自体がこわい」という感覚がある。特に、東北だったら、電力会社で働いている人がその場にいるかもしれないとか、被災して家族が亡くなった人がいるかもしれないとか。いろんな人がいる場で「賛成」や「反対」を表明したら、人を傷つけちゃうんじゃないか、非難されるんじゃないか。「専門家でもないのに余計なことを言うな」と言われるんじゃないかと。
そういった話しづらさがある問題について、話しやすくする。それこそDEARの役割じゃないか。だから、私たちの意思表明は、原発について賛成や反対じゃなくて、「話し合う場を作ろう」という意思を表明しよう、と。
じゃあ、それで教材を作ろうと。その素材、場を作るしかけをやろうと。
なので、私たちにとっては、あの教材こそ意思表明なんですね。
堀野:IVYでも、原発に対するスタンスについて、議論になったことがありました。
震災支援の拠点として石巻に事務所を置いた時、東北電力から原子力立地給付金の通知が届いたんですね。原発の近くの住民に、毎年給付されるものです。石巻も、女川原発のエリアに入るところがあるんですね。
それで、「こんなの来たけど、どうしよう」と。
IVYのスタッフや理事は、そういった制度がある、というのは知識としては知っていたけど、実際にもらったこともなければ見たこともない。
それで、これにどう対応したらいいだろうと、議論になりました。
たかだか数千円ではあるけれど、IVYとしてはもらうべきじゃないだろうという話になった。さらに、組織としての意思表明も必要ではないかという意見もあった。一方、石巻事務所のスタッフは現地で雇用した人で、「地元の人間はもらってますよ」と言っている。それまでIVYとしては原発に対してのスタンスなんて考えたことなかっただけど、そこで結構悩みました。
八木:IVYが受け取らないことで、これまで受け取っていた石巻の人たちのことを否定しているみたいにもなりますよね。
堀野:そうなんです。なので、あいまいな結論というか、その通知を東北電力に突っ返したりもせず、そのまま放置しておこう、という結論になったんですよね。態度を明確にする難しさってありますよね。
八木:その土地に住んだり、活動していくということになるとね。
堀野:なので、原発の問題は難しい。DEARとしても、原発をテーマにすればいろいろ議論を呼ぶことは確実だけど、それを理解した上で教材を作ったわけですよね。
八木:そうですね。この教材はすごく丁寧に作っていきました。
これを出す1年前、2012年の2月に、教材のもとになる素案を会報に付けて、会員に送りました。それで意見・提案を下さいと。加えて、半年ぐらいNGOや教員の勉強会なんかで実際に教材を使ってワークショップもやらせてもらいました。そうしてブラッシュアップしていったものが完成品です。素案を会員に配って意見を募るなんて、これまではなかった。