Home > IVY Social School > Volume 1 [Part2]


堀野:今は大手企業ならどこもCSRを重視し始めている。その中でも、ユニクロのCSRは進んでいて、さらに一歩踏み込んでソーシャルビジネスもやっているわけですが、シェルバさんから考えて、ユニクロと他の企業との違いはどういうところだと思いますか?

 

シェルバ:現場力でしょうか。うちのCSRは現場に行って、現場の課題を見つけて、それを解決するためにNGO/NPOと連携して活動していくというものです。そのフローが他社さんと違うかなと。他社の場合、活動期間とパートナーを決めたら、資金を寄付としてNPOなどに渡して、あとはその報告をもらって進捗確認して、という形が割と多く、現場から遠いところにいる。私たちは、自分たちも現場に一緒に行って考えるというやり方です。小売業だからこそのスピリットかなと思うのですが。

 

堀野:CSRに関しては、組織の中でどのような体制になっているのでしょうか?何か他社と違いがありますか?

 

シェルバ:CSRだけを担当する役員がいます。他社は広報部門とか、マーケティング部門の役員が兼務をしたり、あるいは総務部門の方がやっていることが多いのですが、CSR部門として独立した体制があるのは特筆すべきところだと思います。なので、ブレがないというか、部門としての軸を持っているのは、今の活動に大きく影響していると思います。

 

堀野:先ほどからシェルバさんのお話出てくる、現場の現実を重視する姿勢や課題をみつけてプロジェクトを立ち上げるという考え方は、NGOの方法論に似通っていると思います。

 

ただし、本質的な部分で企業とNGOでは異なる部分がある。企業は最終的に利益を追求する組織ですし、NGO・NPOは社会問題の解決を追求します。突き詰めていくと、NGOと企業が求めるものは相反するかもしれない。

 

この点をお2人はどうお考えですか?

 

安達:皆さんも良くご存知でしょうが、世界の富の格差はどんどん開いている。日本国内もそうですが、海外はもっと激しい格差がある。これは企業にとっても問題だと思います。格差の拡大によって貧困層ばかりになると、商品の買い手が増えず企業活動が続けられない。

 

そういった意味では、企業もNGOも社会問題の解決という大目的は、共有できると思います。同じビジョンで地球の未来を見ている面はある。ただ、最終的に営利を求めるかどうかという部分で、摩擦が起きることはあるでしょう。そこはコミュニケーションを取って、乗り越えていくしかないと思うのですが。

 

堀野:企業の側からするとどうですか?

 

シェルバ:両者の違いを別の視点からお話ししますと、企業はNGOからウオッチされる、モニタリングされる立場でもあると思います。

 

日本のNGOとは比較的友好的な関係性にありますが、欧米系のNGOは労働環境とか工場の汚染の問題だとか、アパレル産業の負の部分を指摘してくる。「あなたたちは正しいビジネスをしていますか」と常に問うてくるわけです。これは今私たちが直面している大きな課題です。グローバルで商売している会社としては、ある意味宿命だと思うのですが。

 

企業体として成長し続けていくことも重要で,きれい事だけではビジネスが成り立たないこともあります。そこでどう折り合いをつけていくか。NGOの意見も聞きながら、企業としての方向性を見定めていくことが大事だと思っています。

 

堀野:会場からも意見を聞いてみたいと思います。

 

質問者(大学生):シェルバさんにお聞きします。CSRは欧米の方が進んでいる部分があると思います。CSRの部分で、海外他社とユニクロをどう差別化してアピールしているのかを、もう少し具体的にお話しいただけますか。

 

シェルバ:確かに欧米アパレルのH&MとかGAPはCSR活動が進んでいます。特に先ほど申し上げた、欧米NGOから指摘が多い、アパレル産業が抱える課題への取り組みが進んでいる。

 

例えば労働環境の問題です。アパレルは労働集約産業ですので、機械化がしづらいところがあります。発注量が多い時期、例えばクリスマスシーズン直前などは、ワーカーさんに長時間労働を強いる状況に陥ってしまったりする。NGOは、それを厳しく見ているわけです。そこで、労働環境のモニタリングの仕組みを作り、それを元に改善するための取り組みをしていく。

また汚水排出などの環境問題についても、単に現地の工場をモニタリングするだけではなく、改善の部分まで一緒に取り組んでいく姿勢ですね。こういった部分は、欧米アパレルの方が進んでいる。

 

ただし欧米の会社は、現地の工場との関係性が深くない。H&MとかGAPはファストファッションと言って、たくさんのアイテムを小ロットで作って売るビジネスです。取引している工場は4千とか5千とかいう数になって、とりあえずモニタリングと環境監査をして発注するけど、要するに関係がワンタイムオンリーになる。

 

ユニクロの場合、取引している工場は中国、バングラデシュ、ベトナム、カンボジアにありますが、全部で70程度です。工場ごとに商品を絞って、品質とか技術力を重視して一緒にもの作りをしていく。例えばヒートテックだけを大量に作ってもらうとかですね。そうすると、生産工程もわかって、顔の見える関係性が築ける。そういう部分は、我々ならではのやり方かなと思っています。

 

社会貢献活動については、H&MもGAPも私たちよりずっとお金をかけています。ただその内容は、チャリティプロジェクトをやっておしまいということも多い。私たちの場合、自ら難民キャンプの現場まで行って服を届ける。そういう愚直さと言うか、泥臭いやり方に、ユニクロらしさがあるのかなと思っています。残念ながら、その量とかお金の額については、まだまだグローバル基準に達していないということがありますが。

 

質問者(社会人):「あなたたちは何者ですか」と問われたという話ですが、これはコーポレートアイデンティに関わる部分だと思います。実際、柳井社長はどのように応えられたのでしょうか。海外に出て行く会社として、どのような理念持っておられるのか、もう少し具体的に聞かせていただきたい。

 

シェルバ:当初、彼はちゃんと答えることが出来なかった。そこに気づきがあって、企業姿勢をちゃんと伝える必要があり、戦略を立ててやらなければいけないと感じたわけです。そうして出来た私たちの企業姿勢・理念は、「イノベーションを起こす」ということです。CSR活動も社会変革を起こすくらいのインパクトのあるものをやろうと考えていて、それがソーシャルビジネスの実施に繋がっていたりします。

 

一方で、正しいビジネスをするということも重要だと思っています。叩かれにくい、正しい商売をする。特に生産の部分ですね。生産は我々のビジネスの根幹となる部分で、例えば服の素材を作る過程で児童労働や強制労働があってはいけないわけです。そういった正しさに拘ったビジネスをしつつ、イノベーティブでもあるということを、企業姿勢として伝えることが出来ればと思っています。