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「服で出来る支援」とは何か

 実際に服を届けた時のお話もしたいと思います。

 

 2008年のエチオピアの難民キャンプへの支援についてです。

 エリトリアという無政府状態にある国から元兵士や脱走兵がたくさん隣国エチオピアの難民キャンプに逃れてきた。皆さん着のみ着のままなので軍服姿。見た目として治安が悪いということがあって、UNHCRから衣料支援の要請がありました。そこで,カジュアルな服に着替えてもらおうと、男性物の衣料中心に夏物8万着、女性の方にも2万着持って行き、伝統衣装と合わせて着ていただきました。

 

 グルジアという旧ソ連からいち早く独立した国へも支援をしました。

 2009年に南オセチア戦争があって、空爆などで14万人ぐらいの避難民が発生しました。寒い冬が迫っている時期で、気温が-15度位まで下がるエリア。これは越冬支援が必要だということになり、フリースとかヒートテック、エアテックジャケットなど冬物を中心に40万着届けに行きました。国によってニーズは異なりますが、フリースはどこでも喜ばれます。軽いし洗ってもすぐ乾くということで、緊急支援では重宝されることがわかっています。

 

 ザンビアでは、ジョイセフという母子保健を推進している国際NGOとの共同プロジェクトがあります。アフリカ全般の話ですが、定期健診で診療所まで行くのに、妊婦が20キロ30キロも歩かなければならない。それが大変なので自宅出産してしまう。自宅出産はお母さんの命が危険に晒されたり子どもに障害が残ったりと、様々な問題があります。そこで診療所に来れば、生まれてくる赤ちゃんの服と家族の服を渡しますよ、というプロジェクトを始めました。服は私たちが提供します。お母さんたちが診療所に来る動機を作ったんですね。これは非常にうまくいったプロジェクトで、タンザニアでも同じようなプロジェクトを行なっています。

 

 衣料支援をして気づいたことは、1枚の衣料が果たすことって、単におしゃれとか自己表現の手段ということを超えて、根源的に人としての尊厳を表し、生活の質を高めることだということです。機能面では、防寒、衛生状況の改善につながるということがあります。そして、社会参加とか、教育価値の提供、こういった付加価値を生み出すということもあります。

 

 ただ、良い話ばかりではなく、実際には物を届けることでいろいろな問題も発生します。ひとつには援助依存ということがあり、単に与えることの限界も感じています。自立とか雇用を生み出すことも同時に考えて行かなければいけないこともわかってきました。

 

 そこで、ビジネスを通じて社会課題を解決していこうと考えるようになりました。

 世界には未だに貧困層の方々が40億人いて様々な課題がある。貧困問題、保健衛生の問題、教育機会の欠如、自立の機会の不足などです。そこで,ビジネスを通じてそれらの問題を解決していくという「ソーシャルビジネス」をユニクロでも始めました。BOPビジネスと言われることもありますが、ユニクロではソーシャルビジネスという言い方をしています。

 

 具体的には、2010年にグラミンユニクロという新しい会社を設立しました。

 モハマド・ユヌスさん、ノーベル平和賞を受賞されたグラミン銀行の創設者の方ですが、彼と一緒にビジネスを通じて社会的課題を解決するというソーシャルビジネスを、バングラデシュでスタートしました。貧困、衛生、教育、ジェンダーといったバングラデシュが抱えている課題を、服のビジネスを通じて解決していこうというものです。

 

 ターゲットは農村部の貧困層で、彼ら自身が欲しいと思える商品を企画して1ドル2ドルという価格で販売するという、チャレンジングなビジネスです。例えば、保健衛生の改善につながる女性用のインナーや生理ショーツ、子供たちの教育機会につながるような制服、乳幼児用のブランケットなどですが、これらの企画・生産・販売のすべてに、貧困層の方々がビジネスパートナーとして加わり実行する流れになります。

 

 日本でやっている商品企画から販売までというビジネスサイクルをバングラデシュで完結する形でやっていこうというものです。バングラデシュ人が好むものをマーケティング調査して、企画して、素材もバングラデシュの市場から直接調達する、生産もバングラデシュ国内で生産パートナーを発掘して、技術力を上げてもらいながら生産していく。販促活動もバングラデシュのマーケットに合ったものということで、口コミやチラシ配布で行います。場合によっては教育啓発ということで、「服を着用したり下着を着用したりすることは保健衛生の改善につながる」ということを紙芝居とか学校の授業に取り込んで、先生たちとセッションをしたり。

 

 そういう販促活動を、グラミンレディというグラミン銀行からお金を借りている女性たちに、販売員としての教育を4日ぐらい受けてもらい、対面販売、行商販売をしていただくということをやっています。

 

 儲けた利益はソーシャルビジネスに再投資するという流れですが、利益を出すのが難しく、正直今は赤字続きです。行商販売というやり方は効率が悪かったり、年に2回くらいしか服を買わないという農村部の販売行動があったりで、ビジネスチャンスどころか利益を出せるようになるにも程遠い状態。最近は農村部だけではなく、ダッカという都市部の郊外にも販路を広げ、ムービングセールスといって移動販売もしています。今ビジネスを組み直ししている最中です。

 

 子どもにはそれなりにお金をかけたいと思っているお母さんたちは多い一方、子ども服はあまり出回っていません。大人のお下がりを着ていることも多いですね。それで、ラーニングTシャツと言って、ベンガル語の勉強が出来て、Tシャツとしても楽しめるというグラフィックTシャツを売ってみたり、これにブックレットといって、文字が学べる教材をつけて販売したり、あるいは布用のサニタリーナプキンの販売も推進しているところです。